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私の職業奉仕の理念

この国に生まれ、約半世紀をこの国と共に生きてきた。
私がいつの日か姿を消して、私の生きた軌跡のみが百年後も残るとするならばそれは私が成した仕事であるだろう。...
仕事を通して刻んだ社会に対する奉仕と貢献だと思う。

建築設計に携わり最早三十五年が経とうとしているが、この間、私の職業観を揺るがす気付きを得る機会が二回あった。
最初は二十九歳のときである。
自分の力では乗り越えられないほどの精神的ストレスがやがて精神的病を患う結果となった。
実はこの経験が、後に私が「健康な家づくり」というテーマにたどりついた決定的なきっかけになった。
以来、私はこのベクトルが仕事からひとときも外れないように意識してきた。

設計はすべてお客様が健康で生きられるように考えた。
そのために提案もすれば、相談にも繰り返し応じた。
子育て、老後のこと、三世代住居、夫婦の生き方の話にも乗る。
形だけの家をつくっても絶対に住む人は満足しないからだ。
お陰様でこれまで私が設計させて頂いたお客さまの離婚話は一件も私の所には届いていない。 

二つ目の気付きは、三十四歳のときに友人に誘われて行ったアメリカ・カナダのツアーでのことだった。
カナダの雄大な自然の中をバスで移動中、ふと連なる住宅が目に入った。
家そのものは平屋の高さなのに、キャンピングカーの車庫が地下に造られていたのだ。
ガイドの人に聞いたところ、その地域では、ハリケーンの襲来を考えてそのような造りにしているのだということがわかった。
さらにそれは景観的にも美しく、はっとさせられたのである。
つまり、その地域の気候風土に合った形の家こそが、最も住みよい家なのだということを忘れてはいけないということだ。形(景観)としての美しさはもちろんのこと、その地域ならではの見えない美しさ、
その両方を意識することの重要性を感じたのであった。私は今までどこを見て設計をしていたのだろうか?
ただかっこいいもの、周囲から評価されるものにとらわれて、私たちをずっと育ててくれた日本の文化や気候風土を
全く意識してこなかったことに気づいたのである。

二〇〇一年、私は我が家を造り変えた。
土間と囲炉裏、障子という日本の伝統的な家屋の文化を現代風にアレンジして取り入れた。
それから、家庭と食は切り離せない文化なので、食事を作る楽しさや食事を囲む喜びを感じられる造りにもした。
その中心的テーマは「健康な家」である。
あるとき、ブラジルの方々5人が我が家を訪れたときに「オー!ジャパン」と歓喜されたのを今でも鮮明に覚えている。
日本に来て一週間、日本の風景に出会えなかったそうだ。
囲炉裏を囲んで過ごした楽しいひとときの時間を私たちは共有した。
囲炉裏というものは不思議なものだ。
囲炉裏に席を構えて座ってもらうと皆笑顔になる。
囲炉裏を体験したことのない若い人たちも笑顔になる。
食べる前からワクワクするのだろう。
きっと日本人のDNAに刻み込まれているのかも知れない。

これからの時代に本当に喜ばれるものは何だろう?
もちろん、人間である以上、欲も見栄もある。
だとしたら建築設計という仕事を通して、心豊かな生活空間を提供して喜ばせてあげたいという大きな欲を持ってもいいのではないか。
日本の自然や文化の豊かさを感じ、それに感謝するところから心豊かな日本人が育つのではないかと私は思っている。
この感謝の文化を作り上げた日本。
家づくりにおいても感謝の心を育みたい。
キーワードは「受け継がないといけないものをお客さんと共有し心豊かな命を繋ぐ」
これが私の職業奉仕の理念でありたい。